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【09.08.06】ー公立保育所廃止・民営化を考えるーお話の記録 樋口和恵さん
今、私たちは何を、「保育とは」「子どもとは」
7月19日(日)午後1時30分より、名張市市民情報センターにおいて『もっと知りたい!保育所の民営化ってなに?』と題する講演会に保育園関係者など40名が参加し学習しました。大阪保育運動連絡会の樋口和恵さんのお話の要点を以下にお知らせします。
自己紹介にかえて
ご紹介いただきました樋口と言います。大阪市内の西淀川区というところで五十年以上生活をしています。そこで二人の子供を公立保育所に預けたことがきっかけで三十年もの間保育運動に関わって参りました。ご出席の皆さんの中にも小さなお子さんをお連れの方もいらして、どんなに時代が移っても子供を育てて働くと言うことは、また、地域の中でその子供たちがすこやかと育っていくということは子供達の愛情がなければ出来ないなあと痛切に感じているところでございます。
民営化されるとどうなる?
皆さんのご関心は、公立保育所がなぜ廃止・民営化されるのか、だと思うんですね。公立保育所の民営化というのは、運営責任が行政から民間に変わります。公立の場合は保育条件も保育内容も運営も行政が(公務員によって)直接責任を負う事ができますが、民間の場合は責任が間接になります。保育園での事故の責任を行政が負う公立と、法人が負う私立の違いでもお分かりでしょう。そのことを是非ご確認していただきたいと思うんですね。
なぜこんな時に民営化?
私は実は、名張市さんがなぜ今こんな風に公立保育所を廃止なさるのかとても不安に思っています。それは、今年から来年にかけて状況が大きく変わろうとしています。厚生労働省の「社会保障審議会」が2月24日に「新しい保育の仕組み」という報告を出しました。今ある保育所を「障害者自立支援法」のようなものに変えるという報告です。
その背景には大きな制度の流れが三つあります。一つは、政府は、現在の行政と保護者の方の契約によって成立している方法をやめて、私立幼稚園と同じように経営者と保護者の直接契約でこの制度を成り立たせていくという事に変えたいと思っています。二つ目に、私立保育所に出されていたお金を出さなくなる。三つ目は、利用料、保育料を基本にして運営がまかなわれていくことになるだろうと言われています。
ですから、もし名張市があえて、民営化しなくても、そういう制度になってしまったら、いろいろと問題があろうかと思いますし、それこそそんな風になってしまったら大変ですから、今年は私立保育所だってちゃんと経営が成り立っていくようにということを大きな運動にしていただいきと思います。次に、今の保育所とはどういうものかということを、皆さんと確認したいと思います。
保育所の成り立ちと今
保育所は、1947年に作られたんですが、私はここに、児童福祉法に込められた意味と書きましたが、実は私どもが保育所に関わるようになったとき先輩に言われたんですね。児童福祉法というのは大変重い中身を持っていると。
それは戦後の憲法に基づいて作られたんです。条文の1条は、全て国民はとなっていまして、子供を等しくその生活を保障する責任を負う。
第2条は、国・地方自治体の責任を明記しておりまして、国や自治体はかってに子供たちを育てるんじゃなくて、保護者と一緒に子供たちを育てていく責任がありますよということを、国や地方自治体に課しております。
第3条は、子供施策というのは、この1条、2条に掲げられた理念に基づいて、全て実施しなければならない。と崇高な理念が謳われているわけです。それは私たちの先輩が先の戦争で多くの若い命が奪われたけれども、そのとき最も被害を受けたのがもの言わない幼い子供たちだったのです。だから大人たちは、もう二度と子供たちにそういう思いをさせてはならないと、崇高な思いを込めて児童福祉法を作ったのです。だから子供たちは歴史の希望であると言われるのです
民営化を考える視点 子どもにとって
先に民営化を考える視点というところをお話ししておきます。私は、民営化の問題は、子供にとってどうなのか、ここのところで本当につらい思いをしています。
子供たちはこう言うんですね、引き継ぎのため1年くらい何人かの先生が残られることになります。それでも基本的には一夜にして、先生が入れ替わるというのが民営化です。だって、経営者が変わるわけですから。3月31日までは慣れ親しんだ先生が、4月1日に全部おられなくなるんですよ。そんなこと子供に理解できるはずがない。財源がないからしょうがないと考えていた先生やお母さんに「そしたら僕はもう保育所へ行くのいやだ」と言ったり、「あの先生がいなくなるのは私が保育所でお利口にしていなかったから」って聞くんですってね。
子供にとって先生というのは、正規の先生も、アルバイトの先生も皆親に変わって、寝ている時間を除きますと家庭で生活する時間よりも、かなり長い時間生活しているんですよ。10時間ですね保育所の場合。その大人を慕っているわけですよね、子供たちは。その保育所が良い保育所か、悪い保育所かなんて以前の問題です。幼児教育に携わる者が決してしてはならないことを、行政はするわけですよね。だから皆、裁判まで起こしたわけです。
コスト論 市の財政は潤うのか
民営化の理由にコスト論があります。
ここでは、市の財政が困難だからとおっしゃっているようですね。私は、市がお出しになった資料を読ませていただきましたけれども、びっくりいたしました。公立保育所の運営費が国庫負担金から市町村の一般財源に変わった、だからと書いておられたんですね。しかし、国庫負担金ではなくなったけれど、交付税措置がなされています。きょう皆さん方のところで準備なさった資料の中に保育所運営費のことがきちっとグラフにして書いてくださっていますので、皆さんは分かっていらっしゃるんだと嬉しくなりました。こういう風に財政にも強くならなければいけない。
保育所のコストなんてすごく簡単なんですよ、保育所は人件費しかかからない営みなんですよ。ですから、先生方に私いつも言うんです、皆さん自分のお給料全部足してちょうだいって。子供たちが10人だとしたら先生3人の給料全部足して、子供10人で割れば子供1人のコストがわかりますよね。0歳児は、赤ちゃん3人に1人必要なんですね、国の貧しい基準でも。だけど5歳になれば30人に1人なんです。0歳と5歳の子供だったらコストは10倍違うんですね、そういうものです。
ですから給料が高いといわれたら、この給料が高いんですかと言えるようになろう、高いというんだったら、その給料を低くしたらいいんですか?そういうことも何も恐れることはない、皆で議論をしたらいいじゃないですか。市民の中に明らかにしてね。子供を育てるために働く人の賃金はどれくらいならいいと思いますか、ということだって議論できる時代だと思うんですよね、私たちは皆で財政に強くなしましょう。
また、公立を私立に変えたところで、私立保育園への補助金を出していれば「財政難」が解決するわけではありません。公立保育所でも私立保育所でも子ども1人当たりの職員数(配置基準や職員の人件費が同じであればコストに差は出ません。公立保育所の廃止・民営化と私立保育所への補助金削減をセットで行うからこそ、財政効果はあがります。
さらに、保育所のコストは保育所だけでなく、地域の子どもたちの発達や将来をも含めた社会的コストとして考える必要があります。
コストが安くなることと保育の質は?
公立と私立のコストの差は人件費なのです。コストを安くするということは保育士を新規採用や短期雇用など給料の安い職員に替えるということになります。
しかし、保育士というのは、教育・医療と同様に専門性が求められていますね。子どもには様々な個性があり、保育現場での経験、体験学習を通じて積み重ねられます。マニュアルどおりに対応しておけばいいというものでは決してありません。このようなことから保育の専門性、保育の質を守るためには、人件費や労働条件は社会的に必要なコストとして市に認めさせることが大切なんです。
公立は融通がきかない?ニーズ論
ニーズ論ですけれど、よく公立保育所は私立保育所に比べると融通がきかなくって、住民要求に応えていないといわれます。「夜間保育をしていない」だとか、「休日保育をしていない」だとか。
ですけどそんなのは行政の責任回避です。行政が自ら運営している保育所でできなくって、どこでできるんですか?そのこと私たちは主権者として行政や、政府に伝える必要があります。私たちが生きていくために、必要な税金もきちっと納めている公の機関ですよ。そういう所が私たちと一緒に物事を考えてくれることが本当に大切だと思うんです。
公立保育所と私立の関係は?
私たちは、公立保育所と私立保育所を比較する場合に、制度の問題と、内容の問題、実践の問題はしっかり分けて考えることが必要です。公立保育所の制度は、公が直接的に運営するという有利な点があるわけですね。 じゃ、内容はと言いますと、それは公立であれ私立であれ共に検証しなければならない様々な問題がある。公立が良いとか、私立が良いとかということではなくって、その後の発達保障において、或いは働く人たちの状況や、地域の子育て支援全体にとってどのようになっているか。いくら理念が良いことが書かれてあっても、実際の保育内容は、保育システムはどうなのか、ここらを分けてしっかり見ていく。しっかり子供の視点に立って言葉を考える。
申し上げたように、それは、公立保育所を民営化しなければ実現できない問題なのか、ほかに方法がないという問題なのかということを本当に問い詰めていっていただきたい。
今、私たちは何を
この名張市では、今、民営化が問題になっていますが、私の住んでいる大阪はいち早く公立保育所廃止の問題がでてまいりました。それは、公立保育所がひじょうに大きな役割を地域ではたしていたこともあります。 1998年すでに堺市は全園公立保育所の民営化を打ち出しています。
私たちは、99年、2000年は本当に嵐のように、公立保育園が民営化されなければならないのか、ということがありまして『公立保育所の民営化、どこが問題か』というパンフを2000年に出したんです。そのため、アメリカへ調査にいってまいりました。なぜ公立保育所は民営化されるのかということを、アメリカの保育事情から明らかになったわけですね。
で、私たちは公側が責任を負っている北欧はどうかということで、スウェデンやノルウェーにもいってまいりました。そんな中で改めて保育所への企業参入がどういう問題を生み出すのかよく分かって、大阪ではすごい勢いで公立保育所廃止、民営化反対の運動をいました。大阪では裁判もしているんです。横浜市では地裁で「民営化についての保護者の承諾が得られていない」と賠償命令が出るなど、親が勝利もしています。
しかし、この間、大阪では100カ所の公立保育所が廃止、民営化されました。ですから、きょう私たちは名張の皆さんが、私が大阪で体験したつらい思いを本当に生かしていただいて、今日の時代にふさわしい保育制度を作っていくために、ぜひ皆さんで力を合わせていただきたいなと、きょう親の会ができるということで頼もしく思って、寄せていただいているところです。
もちろん私たち大阪では、手をこまねいていたわけではありません。自分たちで保育所をこの間たくさん作りました。2000年から今までで30カ所、住民の力で土地もさがし、お金も集めて新たに保育所を建設しました。
「反対運動はムダ」なのでしょうか?
先ほどから、国の流れが大きいとの話をしました。それで、運動しても無駄ではないかとのお話もあります。しかし、そんなことはありません。廃止・民営化や民間委託に反対する運動は、「Oか100か」の運動ではありません。たとえ民営化や民間委託されても、反対運動を旺盛にしていくなかで、移管条件を引き上げ、子どもたちの負担を軽減することができます。 また、保育所の廃止・民営化・民間委託に反対している保護者がたくさんいることや、民営化や委託の実態を広めていくことで、保育所の民営化や民間委託を許さない世論作りになります。保育所や子育てについて広く関心をもってもらうことにもつながります。また、保育所の中では、反対運動を通して、保育所や子育て、社会のことなどを学習し、考え合える仲間が広がります。
最近、派遣切り110番を全国ネットでいたしましたが、大阪からかかった電話の中に、5歳の子供に1歳の子供をみさせて働きに行っている、そういう子もありました。私たち保育に関わっている者は子育てを大事にしたい、だからこそどのお子さんも大事にしたい。公立保育所が今後ますます本来の役割が発揮できるよう、私立の人たちもご一緒に、この名張で本来の子育ての環境を作っていける、そういう役割の公立保育所に発展させていただきますように心からお願いをして話を終わります。どうもありがとうございました。(拍手)
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